• 2025年1月8日

偽調節について

羽曳野市で白内障手術に力を入れております こにし眼科 院長の小西です。

偽調節という現象は以前から知られています。

白内障手術後は、本来生まれつきの水晶体のあった場所には変わりにシリコンあるいはアクリル製の人工レンズが入っている訳ですが、調節力 つまりピント合わせの機能は理論的にはありません。例えば近くを見たいからと言って、人工レンズが厚くなったり薄くなったりするわけではありません。

最近流行りの多焦点眼内レンズは自分で伸び縮みするわけではなく、レンズに模様が入っており 光を分散することで調節機能を持たせているわけです。このため、多焦点レンズの問題点としてwaxy vision(はっきりとは見えない)やハロー、グレア(光がギラつく)などの見え方をすることがあるわけです。

さて、一般的に保険診療で使われる通常の単焦点レンズを使用しているにもかかわらず、手術した患者様から遠くも近くもよく見えると言われることはしばしばあります。この原因について私も論文を調べてみたことはあります。結論としては まだ原因がはっきりと分かっている訳ではありませんが、いくつかの条件が重なるとこのような現象が起こりやすいようです。

まず、瞳孔径、つまり瞳のサイズです。光は角膜を通過したのちに、虹彩の中心にある瞳孔を通り、眼内へ入るわけですが、瞳のサイズが小さい人は、カメラの絞りが絞られた状態となりますので、焦点深度は深くなります、ということはピントの合う範囲はひろがるという訳です。年を取れば取るほど縮瞳傾向は強くなりますから、高齢者ほど有利になるはずです。

次に、適度な乱視があること。乱視は悪者と思われがちです。乱視は主に角膜での90度方向と180度方向の光のばらつきです。要は乱視のある人はある一点に光が集約するわけではなく、その光の集まる範囲が広くなってしまうことでピンボケ像を感じる訳です。あまりに強い乱視は光の散乱が強くなってしまいますが、それほど強くない乱視の人は、程よく前後に光の束が分散してピントの合う範囲が広がる訳です。

あとは、術前の見え方です。これは私の主観も含まれますが、術前に比較的屈折異常も少なく、遠視気味の方は偽調節は起こりにくい印象はあります。逆に強度近視があり、術前から見え方の質が悪かった方は、多少の近視が残っていようが、裸眼視力は割と出る傾向はあると思います。これを偽調節と呼ぶかはさておき、脳内の視覚に対するボケ像の許容性の問題なのかもしれません。

こうしてみますと、超高齢で、もともと近視眼で、乱視のあった方は単焦点レンズを入れても必ず老眼鏡が要らなくなるのですかと言われると、実はそうでもありません。いくつかの論文などにも書いてありますように、まだ未知のファクターは存在しています。つまり術前から予測するのは難しく、たまたまそうなった方はラッキーだったというくらいの予測しかできない訳です。

一般的には保険診療で入れる単焦点レンズでは、老眼鏡などの使用は必須と考えたほうがいいかと思います。おそらくこのようなラッキーな現象が起きた人の話を聞いて、白内障手術後は眼鏡が全く要らなくなるという話が一部の方に広まっているのだと考えています。

当院では特に術前のレンズ度数決定については一番時間をかけて説明している部分ではあります。これから白内障手術を受けて頂く方へ、参考にして頂ければ幸いです。

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